LIVE REPORT

ぱらぱらと降った雨が上がり、夜が始まる頃、弁天湯前には長蛇の列ができていた。
2010年5月20日、大槻ケンヂによるアンプラグドLIVEの宵である。
お客さんは、20~40歳位まで、とにかく女性が多い。レースをあしらったスカートなど、ゴスな衣装のかたがたも目立つ。しかし、眼鏡に背広の社会人男子たちも君臨。開演前、会場となった浴室では、それぞれがドリンクを飲みながら和やかに語り合っていた。

19時、照明が落とされ、暗くなった会場に、
「ババンバ バン バン バン…♪」
と軽妙な声が響いた。声の主、大槻さんは短髪に素顔、チェックのシャツの出で立ちで、ギター片手に舞台に登場。笑いながら始まる挨拶のMCで、集った人々の期待感から高まっていた会場の緊張感が溶け、ゆったりと音楽を楽しむ空気が生まれる。気付くと、大槻さんは近頃始めたというギターを弾きながら、曲を始めていた。まだまだと自嘲しながら弾くギターも小気味良く、お客が大きな歌声に飲まれていく。

 曲が終わると、
「銭湯が好きで、昔、色んな所に行っていました。」
と、銭湯に纏わる思い出トーク。かつて、脱衣所で服を脱ぎ、人に一番観られたく無いタイミングでサインを求めてきたスーパー銭湯の従業の話や、喧嘩していた知り合いを銭湯で見かけてしまい、様子を探っていたら相手は最初から最後まで同じ格好のまま湯船に佇んでいたという観察体験の過去などが語られていく。
その後も、大槻さんのギターと、お腹から出される声が会場に響いていく。演奏の前には説明がつけられ、時に、お客さんから絶妙なツッコミ。ゆるやかに時間が流れていった。MCも止まらない。オールナイトニッポンの話や、漫画『テルマエ・ロマエ』の話、筋肉少女帯の新アルバム「蔦からまるQの惑星」(6月2日発売)の話…。

後半では、ギタリストとドラマーのゲストとのセッションも行われ、盛りだくさんの内容が弁天湯の夜にぎゅうっと詰め込まれたひと時だった。最後は、「とても良いお湯でした!!」と笑顔。
お客さんの帰らせないぞという気持ちの手拍子が銭湯の高い天井にこだまし、アンコールで答えるファン思いの大槻さん。ギターを握る姿がペンキ絵の富士山の前で鮮やかに映えていた。

ライブレポート/田中 みずき