LIVE REPORT

10月15日、先週とはうって変わっての秋晴れのなか、風呂ロック VOL.16・ASA-CHANG&巡礼の「マグネットツアー2009」のツアーファイナルが行われた。この日は朝から秋の陽気につつまれて、からからと落ち葉は風に揺れ、作業は順調に進んだ。しかし、午後になると気温はぐっと低くなって、弁天湯の前にお客さんの姿が見え出したころには、道路に置いたライトの光が暖かく感じるほどまでに冷え込んだ。

18時、開場。
寒い外とくらべ浴場内は暖かく、額にうっすらと汗をかくほど。会場の暖かさに、来場したお客さんはほっとした様子であった。比較的男性客のほうが多かったためか、それとも熱気のせいなのか、ライブが終わるまでビールを買い求める人の列は途切れることはなかった。
この日会場内で真っ先に目に付いたのが、普段の風呂ロックならば普段見ることのないステージに取り付けられたブラックライト。そして、お客さんの目の前までせりでたステージ。いつもとは違うステージの組み方に、これから始まるライブを想像して胸を高鳴らせていると、ブラックライトが点灯。ライトの光に照らされてASA-CHANG&巡礼の二人が怪しく光ると、大きな歓声が沸いた。
タブラのチューニングが終わると、すぐに演奏がはじまった。一曲目は「parlor」。ウォーミングアップとでもいうのだろうか、軽快に演奏するASA-CHANG&巡礼の二人に、観客もすぐにASA-CHANG&巡礼の世界に溶け込んだ様子。その後、一曲目の余韻を残したままMCへ。実はマグネットツアーのツアーファイナルだった、この日。8月29日から始まったツアーの最後であることをASA-CHANGさんが告げると会場からわっと拍手が沸いた。
その熱気をうけたまま、代表曲「花」、「くるみ合わせのメロディ」へ。
聞き覚えのあるメロディに誰もが、目を開いて、今一度舞台を見つめ直す。どこからかは拍手も聞こえた。しかし曲が始まってすぐにわっと沸いた会場も、しんと静まり返りそれぞれが思い思いの姿で曲にひたる。その場にすとんと立ってとろんと舞台を眺める人、また目を閉じて曲に聞き入っている人も。またある人はゆっくりとリズムにあわせてその場でステップを踏んでいた。

演奏終了後、ここで再度MCへ。ASA-CHANG さんによるメンバー紹介改め「状況説明」が行われた。前日32歳をむかえたU-zhaanさんの紹介と、巡礼トロニクスの紹介。なごやかなMCと、二人のトークの掛け合いに会場からは始終笑い声があふれた。また、お客さんからの質問を受け付けるという場面も見られ、ASA-CHANG&巡礼のお二人とお客さんとが一緒にライブをつくりあげていた。
その後「JIPPUN」「家へ帰りたい」「ウーハンの女」「12節」「つぎねぷと言ってみた」「2月」と曲は続いた。「家へ帰りたい」と「ウーハンの女」ではASA-CHANG さんの歌声が、雄大な富士山のペンキ絵と相まって、力強く響き渡り観客を引き込んだ。「つぎねぷと言ってみた」では、ラストにU-zhaanさんのタブラによる長いソロパートがあり、タブラの打ち込みの速さに誰もが目を奪われた。U-zhaanさんの奏でるタブラの音色は、浴場のリバーブがかかっていつまでも高い天井に、そして私達の頭のずっと奥でこだましていた。
この日の最後をかざったのは「影の無い人」。演奏時間10分強、進んで戻って進むのではなく流れるように前へ進んでいくこの曲。ASA-CHANG さんは右手でタブラをひきながら口にくわえたシンバルを左手で鳴らし、U-zhaanさんはタブラを一心にうつ。そんな姿を目の前で見ていると、CDで録られた音を再現するのではなく、ライブで演奏されることで更に新しい音が生み出され、知っている曲なのに初めて聞いた曲のような印象を自分が受けていることに気づいた。それは周りも同じなのか、それまで個々で音を楽しんでいた人たちが、もっと深いところで自分だけの音を探そうと、音にさらに敏感になって自分だけの空間に入り込んでいるのがわかる。自分だけが見つけた曲にそれぞれが浸っているというのがいいかもしれない。

演奏終了後、昨日が誕生日だったU-zhaanさんの誕生日をサプライズでお祝い。風呂ロックからは、花束・お客さんからのメッセージがかかれた色紙、そして富士山を描いた特大のケーキをプレゼント。驚きながらも満面の笑みをうかべるユザーンさんに、お客さんからも「おめでとう」の声がとんだ。
その後「ここに幸あり」と「カクニンの唄」をアンコールで演奏。
「カクニンの唄」では、「全員で歌いましょう!」というASA-CHANGさんの提案で、小さな歌詞カードをASA-CHANGさんが舞台上からばら撒き、浴場は少しばかり混乱状態に。しかし、カードを取れた人が取れなかった人とカードを見せ合いながら歌う場面も見られ、照れながらも隣の人と楽しそうに歌う姿は、人との距離が近い風呂ロックならではのものであったと思う。それは、それまでの一人ひとりが自分の世界にこもって音楽を楽しむライブから、ASA-CHANG&巡礼さんの歌声に導かれて、お風呂場がみんなのひとつの世界にかわった瞬間だった。楽しい気持ちに、終わる寂しさ、カクニンの唄はその場のみんなの気持ちをひとつにした。

お風呂場に響くASA-CHANG&巡礼の二人の声と、観客の声。手を振りながらみんなで歌ったカクニンの唄。弁天湯に響き渡った歌声は澄んだ夜空に、そしてみんなの記憶の中に、いつまでも響き渡っていた。
ライブレポート/猪股 有佐