LIVE REPORT

10月8日、トクマルシューゴさんによる風呂ロックvol.14が行われた。
当日は、近年まれに見る勢力の強い台風が接近し、朝から豪雨と横殴りの強風がふいた。
スタッフが弁天湯に集まると、誰もがびしょ濡れの身体で寒さに凍えながら、暖をとった。天井にはめられた飾りガラスは、今にも割れんばかりに鳴り、弁天湯がゆれているかのような錯覚に陥る。
ちょうどそのころ、弁天湯のホームページには当日の公演開催を心配する多数のメールがよせられ、誰もがこの日の開催を危ぶんだ。
しかしながら、スタッフやお客様の強い要望をうけ、前日から決定していたこと、「台風がきても風呂ロックは決行する」という旨を、このときホームページで発表した。
心配していた台風も午後には過ぎ去り、準備は順調に進んだ。

18時半、開場。
カップル・友人同士・親子で来る人など年齢層にとらわれず、多くのトクマルファンが温かい缶コーヒーなどを握りながら、待ちきれない様子で弁天湯の前に列をなした。中には会場前から並んでいるファンもおり、ライブへの注目度の高さがうかがえた。
台風の後ということもあり、場内はいつもと比べ少しばかり湿度が高く、蒸し暑かったこの日。これから始まるトクマルさんのライブを想像してか、冷たい甘いカクテルをゆっくり飲む人が目立った。また、開始時刻が普段より30分遅かったこともあり、フードコーナーで買ったベーグルやホットドックを食べながら、周りとおしゃべりを楽しむお客さんの姿があちこちで見られ、風呂場なのにまるでピクニックのようであった。
19時半、定刻通りライブは始まった。
トクマルさんがステージ上にあらわれると、今か今かと待ちわびた会場からわっと声があがる。そしてすぐに、会場はしんと静まりかえり、観客はじっと演奏がはじまるのを待った。
穏やかで静かな雰囲気のトクマルさん。軽く挨拶をすると、すとんとパイプいすに腰掛け1曲目の「such a color」へ。そして「Light Chair」へと曲は続く。
お客さんが真剣にステージを見つめる姿と、トクマルさんの演奏しか聞こえない静寂の中、トクマルさんがミスをして、演奏をやり直すシーンがあった。そのときのトクマルさんの笑顔で、開場の緊張感はゆるみ、観客も笑顔にかわった。トクマルさんが奏でる音を浴びながら、気持ちよさそうに体を揺らしている観客の姿は、幸せそうで、様々なところにちらばっていく音をつかまえようとしているようにも見えた。

曲の合間にはいるトクマルさんのMCも非常に印象的であった。
小さな声で、会場の一人ひとりに話しかけるようなMC。観客は耳を前にそっとだして、トクマルさんの声を聞く。みんなに話しかけているはずなのに、観客とトクマルさん一対一のおしゃべりがそこには存在するようだ。
あまり話すのは得意ではないというトクマルさんだが、笑いの絶えない暖かな雰囲気が、銭湯のもつ独特の温かみと非常にマッチしていたと思う。
100種類以上の楽器や非楽器を操り、レコーディングからミックスまで全てを一人でおこなうトクマルさん。
しかし、この日は音源をより忠実に再現するために、途中からトクマルシューゴバンドの皆さんも登場。4人での演奏となった。
トイドラムのような非楽器から、様々な楽器を操り、音をつむぎ、重ね、音楽へとかえていく様子は、目で見えるはずのない音が、目の前に現れては光り、消えていくような錯覚に陥る。
そして、誰もがとても暖かな気持ちになる。
弁天湯の高い天井にシャナリシャナリと響く楽器の音、それを拾い上げるトクマルさんのギターの音色。浴場のリバーブはその深みをさらに増した。
ライブ中盤、トクマルさんの代表曲「parachute」が演奏された。客席から「やったぁ」という声が会場のあちこちからあがる。最前列の少年はサビのリズムに合わせて飛び跳ね、その場で小躍りする人も。
トクマルさんの少しかすれた声にあわせて、揺れるお客さん。そう、トクマルさんのライブは、森の奥の小さな村のお祭りのようなのだ。誰もが、隣の人と手をとりあって、笑顔で喜びを分かち合う、そんなイメージなのだ。

楽しいときは、あっという間に過ぎてしまうもので、ライブは気がつくと終盤に。
トクマルバンドによるトイドラムの即興演奏や、The Bugllesの「Video Killed Radio Star」、「パパラッチ4」、「parachute~max speed edition~」が演奏され、ライブは幕をとじた。

嵐が過ぎ、弁天湯の上に広がる満天の星空のもと、トクマルさんによって紡ぎだされた音たちは、一つひとつが確かな輝きをもって弁天湯に、そしてお客さんに静かに降り注いだ。
雲ひとつない満天の夜空。光り輝く音たち。吉祥寺の小さなお風呂屋さんに、無数の星が光り輝いた夜だった。

ライブレポート/猪股 有佐