LIVE REPORT

7月2日、蔡忠浩さん、野村卓史さんによるランタンナイトvol.2が開催された。
朝から天気は生憎の雨。誰もが2回連続、雨の風呂ロックを予想したが、開場するころにはからりとやみ、星空のもと12回目の風呂ロックは幕を開けた。
開場と同時に、多くのお客様が来場。
夏の始まりということもあり、開場直後から物販のビールを買い求める列ができた。少し蒸し暑い浴場で、見知らぬ隣の人とビールで乾杯をする姿は、風呂ロックならではの光景で、とても新鮮であった。
そんな和やかな雰囲気のなか、野村卓史さんによるライブは始まった。
「すきなようにリズムにのってくれればいいので」と、優しく観客に語りかける野村さん。風呂場でのライブということで、普段と違うライブ形式に戸惑っていたお客さんたちの緊張がするりと解けた。軽快なキーボードの音色に合わせて、目を閉じて音に浸ったり、体を好きなように揺らしたり。それはまるで、歌詞のない音楽に、それぞれが好きな歌詞を乗せて楽しんでいるようにも見えた。
この日は、アップテンポの楽曲からゆっくりとしたものまで、様々な音で観客を楽しませてくれた。
ここで一度、休憩へ。
野村さんの演奏で熱を帯びた会場から涼しさを求めて、お客さんは物販ゾーンへ。ビールやタイカレーで次の蔡さんのライブに備えて腹ごしらえをしている姿があちらこちらで見られた。 ビール片手に蔡さんが会場に現れると、会場からやわらかな拍手がわいた。購入したてのTENORI-ONを使いながら「ただ、自慢したいだけなんやけどね」と笑顔でゆっくり語る蔡さんを見て、観客も自然と顔がゆるむ。そんな中、ライブは静かに始まった。
蔡さんが歌いだすと、普段ライブ会場で聞いていても「伸びる歌声」が、風呂場のリバーブでさらに響きを増す。風呂場というあまりにも近い距離にいながらも、観客はその声を求めて、顔をそっと前にだす。そして彼の歌う曲に合わせて、思い思いに体を揺らした。

普段bonobosとして活動している蔡さん。まわりにメンバーがいないという状況は、極度の緊張を生んだのだろう。時折曲が止まる場面も見られたが、そのたびに一つひとつメロディーを確認し、笑顔で最初から引きなおす姿から、蔡さんの人柄を垣間見ることができた気がした。
この日は「のこされし者のうた」から始まり、「中央線」「天体のワルツ」など全8曲を演奏。その最後を飾ったのは「GOLD」であった。それまでの、のんびりした会場の雰囲気が一転。それぞれが思い思い楽しむライブから、ひとつになって楽しむライブへと変わったのがわかった。蔡さんの歌声に合わせて、観客が歌を口ずさみ、さらに蔡さんがそこに声を乗せて遠くへ運んでいくような、そんな感覚。誰もが楽しそうに、うれしそうに「一緒に」歌う姿は、きっと誰にとっても忘れられないものになっただろう。

ライブ中盤、あの往年の名曲「Love is over」に入る前に、この曲にまつわるエピソードが紹介された。それは、以前ライブでこの曲を演奏した時に、自分の姿と歌詞を重ねて涙を流した観客がいたというもの。
誰もがきっと、歌に何かしらの思い出をもっていると思う。蔡さんの作る歌には、日常生活の小さな幸せが大きな喜びになることを教えてくれるものが多い。だから、観客は歌に自分を重ねて、記憶の中にある喜びを見つけて、しあわせな気分に浸ることができるのだ。

7月2日。七夕が近づくこの夜に、銭湯という会場で、蔡さんと野村さんの音楽に浸りながら、観客はどんな幸せな記憶に浸っていたのであろう。
ライブレポート/猪股 有佐

写真/藤代雄一朗